ベンチプレスやダンベルカールの後、肘の外側に痛みが走る——筋トレをしている人なら一度は経験したことがあるかもしれません。「重量を上げすぎたのかな」「フォームが悪いのかな」と不安になりながらも、痛みを我慢してトレーニングを続けている方も多いのではないでしょうか。
実はこの肘外側の痛み、多くの場合外側上顆炎(通称:テニス肘)が関係しています。理学療法士として6年間、さまざまな運動器障害の方を診てきましたが、ベンチプレスやチンニング後に肘外側が痛むという相談は想像以上に多い。共通しているのは、手首の使い方やフォームに小さな癖があること。そして、その癖に気づかないまま負荷を上げ続けてしまっていることです。
この記事では、筋トレで肘外側が痛む5つの原因と、臨床で実際に効果があったフォーム改善・セルフケアの方法を具体的に解説します。痛みを我慢して続けるのではなく、根本から見直して安全にトレーニングを続けましょう。
この記事でわかること
- 肘外側が痛む5つの原因と外側上顆炎のメカニズム
- 痛みを引き起こしやすい筋トレ種目と動作パターン
- 手首の使い方・フォーム改善で痛みを防ぐ方法
- 痛みが出たときのセルフケアと受診の目安
- 再発を防ぐためのストレッチとエクササイズ
筋トレで肘外側が痛む5つの原因
肘の外側が痛むとき、多くの人は「使いすぎたから」で片付けてしまいがちです。しかし理学療法士として患者さんを診てきた経験上、痛みの背景には複数の原因が絡み合っていることがほとんどです。ここでは肘外側の痛みを引き起こす5つの主要な原因を、解剖学的な視点から解説していきます。
外側上顆炎(テニス肘)のメカニズム
肘の外側が痛む原因として最も多いのが、外側上顆炎(通称テニス肘)です。外側上顆炎は、肘の外側にある骨の突起部分に付着する前腕の伸筋群(手首や指を反らす筋肉)の腱が変性・損傷を起こす病態です。
この腱には主に短橈側手根伸筋が付着しており、手首を反らす動作や重いものを持つ動作で繰り返し負荷がかかります。腱組織は筋肉に比べて血流が乏しいため、一度損傷すると修復に時間がかかるのです。実は、外側上顆炎は単なる「炎症」ではなく、腱のコラーゲン線維が乱れ、変性した組織が慢性的に残る状態だとわかっています。

ベンチプレスやプルアップ中に肘外側が痛むという方を診ると、手首が過度に反った状態でバーベルやバーを握っていることがほとんどです。手首の角度が不自然だと、伸筋群に強い遠心性収縮(筋肉が伸びながら力を発揮する状態)が加わり、腱への負担が増します。
手首の中立位を保つこと、グリップの握り方を見直すことが、腱への負担を減らす第一歩です。まずは今日から、鏡でフォームをチェックしてみましょう。
手首の過度な回内・回外による負担
手首を過度に回したり捻ったりする動作が、肘外側へのストレスを強めることがあります。たとえばバーベルカールで手首が小指側に倒れたり、プッシュアップで手のひらが極端に外向きになったりすると、前腕の回内・回外に関わる筋群が過緊張を起こします。回内筋と回外筋のバランスが崩れると、外側上顆に付着する伸筋群の腱が過剰に引っ張られ、微細損傷が蓄積していくのです。



ダンベルカールで手首を無理に回し込む動作を繰り返していた方が肘外側の痛みを訴えるケースをよく見ます。フォームチェックで手首の中立を意識してもらうだけで、数週間で症状が軽快した例は少なくありません。
手首の動きが大きい種目では、まず手関節を真っすぐ保つことを最優先にしましょう。グリップ幅や手のひらの向きを微調整するだけで、肘外側への負担を大幅に減らせます。痛みを感じたらすぐに動作を見直し、必要なら種目を変更してください。
前腕伸筋群の筋力バランス不足
肘外側の痛みは、手首や指を伸ばす前腕伸筋群に過度な負荷がかかることで起こります。特にベンチプレスやダンベルカールなど、手首を固定する力が求められる種目で負担が大きくなります。



現場で診ていると、重量を追い求めるあまり手首が反って小指側に傾き、前腕伸筋群が過剰に緊張している方が非常に多いです。この状態が続くと肘外側への負担が蓄積し、腱付着部で炎症が起きやすくなります。
実際、手首の伸筋群は屈筋群に比べて筋力が弱く、バランスが崩れやすい構造です。重量を扱うとき、屈筋側ばかり意識して伸筋側のケアを怠ると、筋力の不均衡が生じます。その結果、手首の中立位が保てなくなり、肘外側にストレスが集中するわけです。
まずは手首を反らせず、自然な位置で握ることを意識してください。次のセクションでは、具体的なフォームの崩れと対策を見ていきましょう。
肘外側に負担をかけやすい筋トレ種目と動作パターン
肘の外側が痛むとき、実は原因となる種目や動作にはいくつか典型的なパターンがあります。臨床で「この種目を続けたら痛くなった」と相談を受けるケースでは、ほぼ共通して特定の動きに無理な負荷がかかっていました。ここでは、肘外側に負担をかけやすい代表的な筋トレ種目と、その中でどんな動作が痛みを引き起こすのかを具体的に見ていきます。
ベンチプレス時の手首の角度と肘への影響
ベンチプレスでバーを握る際、手首が反って小指側に傾くと、前腕の伸筋群(手首を反らす筋肉)に過剰な負荷がかかります。この状態で高重量を扱うと、外側上顆に付着する短橈側手根伸筋への牽引ストレスが増大し、肘外側の痛みが生じやすくなります。
手首の角度が不安定なまま動作すると、バーを下ろす局面(伸張性収縮)で前腕伸筋群が過度に働き、腱への負担が蓄積します。特にバーを胸に近づける際に手首が反ると、肘外側への力学的ストレスが最大となり、微細な腱損傷が繰り返される原因となります。



ベンチプレス後に肘外側が痛むという方のフォームを確認すると、バーが下がるたびに手首が反って小指側に傾いていることがほとんどです。本人は「しっかり握っている」つもりでも、重さに耐えきれず手首で受け止めてしまっているのです。
手首を中立位(やや掌屈)に保ち、バーを手のひらの中心やや親指寄りで支えることで、前腕伸筋群への過負荷を軽減できます。まずは軽い重量で手首の角度を確認し、セット中に姿勢が崩れないか動画撮影でチェックしてみましょう。
プルアップ・ラットプルダウンでの握り方
プルアップやラットプルダウンで肘の外側が痛む原因として、握り方が大きく関わっています。特にサムレスグリップ(親指を巻き込まない握り方)で行うと、前腕の回内が起こりやすくなります。この回内は橈側手根屈筋の過緊張を生み、短橈側手根伸筋に対して相対的な過負荷をかけるため、肘外側の付着部にストレスが集中します。



プルアップ後に肘外側が痛むという方を診ると、たいてい親指を使わない握り方で引いていました。
対策として、サムアラウンドグリップ(親指を対立させてバーを包む握り方) に変更すると、手首が中立位を保ちやすくなります。これにより前腕の回内が抑えられ、伸筋群への負担が分散されます。握り幅も肩幅より少し広め程度にすることで、肘の外側へのストレスをさらに軽減できます。さっそく次回の背中トレーニングで握り方を確認してみましょう。
バーベルカールとリストの位置
バーベルカールは、前腕の回内・回外が自由に行えないバーの形状と握り方によって、肘外側の負担が大きくなりやすい種目です。バーを握ったまま肘を曲げると、前腕の橈骨(親指側の骨)と尺骨(小指側の骨)の位置関係が固定され、本来なら自然に起こる前腕の回転運動(回外)が制限されます。この結果、短橈側手根伸筋や長橈側手根伸筋といった肘外側から始まる筋肉が、無理に引き伸ばされる形になるのです。



バーベルカールで肘外側が痛むという方を診ると、ほぼ確実に手首が小指側に傾いた状態(尺屈)でバーを握っています。この状態で反復すると、外側上顆に付着する伸筋群の腱が繰り返しストレスを受け、微細損傷が蓄積していきます。
痛みを予防するには、バーを握るときに手首を真っすぐ保つ意識が大切です。親指側と小指側が同じ高さになるようにバーを持ち、カール動作中も手首の角度を変えないようにしましょう。フォームに不安があれば、まずダンベルカールで前腕の回転を許容しながら動作を確認し、バーベルカールは段階的に取り入れてください。
痛みを防ぐフォーム改善と手首の使い方【理学療法士の視点】
肘の外側の痛みは、多くの場合「手首の角度」と「前腕の使い方」が原因です。経験上、重量を追い求めるあまり手首が反ったフォームで繰り返し動作を行い、結果として肘外側に負担が集中してしまうケースをよく見てきました。ここでは理学療法士の視点から、痛みを防ぐための具体的なフォーム改善と手首の使い方を解説します。
手首の中立位を保つ意識とグリップ方法
手首が反ったり小指側に傾いたままトレーニングすると、前腕伸筋群に不要な負荷がかかり、外側上顆への付着部でストレスが集中します。バーベルやダンベルを握る際は、手首を軽く巻き込むような意識を持ち、前腕の延長線上に手のひらが乗るニュートラルポジションを保つことが重要です。これにより伸筋群への過度な引っ張りが軽減され、肘外側への負担が分散されます。
具体的なグリップ方法として、バーは掌底(手のひらの付け根)に近い位置で握り、指先だけで無理に支えないことを意識してください。ベンチプレスやダンベルプレスではバーが掌の中央より下に当たるようセットし、プルダウンやローイングでは小指側を過度に握り込まず、親指側から巻き込むように握ると手首の角度が安定します。鏡や動画で横から手首の角度を確認し、まっすぐに近い状態を維持できているか定期的にチェックしましょう。
肘の角度と動作スピードのコントロール
肘の痛みを防ぐには、動作スピードのコントロールが欠かせません。特にベンチプレスやアームカールなどのプッシュ・プル系種目では、下ろす局面(遠心性収縮) でスピードが速すぎると、肘の外側に過度なストレスがかかります。



ベンチプレス後に肘外側が痛むという方を診ると、バーを一気に下ろして跳ね上げる動作を繰り返していることが多いです。
遠心性収縮では筋繊維が伸びながら力を発揮するため、制御が弱いと腱への負担が一気に増大します。下ろす局面で2〜3秒かけてゆっくり下ろし、ボトムで0.5秒静止してから挙げることで、腱への衝撃を和らげられます。反動を使わず、筋肉でウェイトを支えることが大切です。
加えて、肘が完全に伸びきる手前で動作を止める「可動域制限テクニック」も有効でしょう。完全伸展時に肘の外側へ負荷が集中しやすいためです。まずは8〜12rep・3セットで、動作スピードを意識したトレーニングから始めてみてください。
動作の見直しと並行して、肘そのものを保護したい場合は肘サポーターも選択肢になります。テニス肘のように特定の一点が痛むケースでは、パッドで腱の付着部を圧迫するタイプが特に有効です。
トレーニングベルトとリストラップの活用
手首まわりの補助具を使うことで、関節を安定させ、前腕伸筋群への過度な負荷を分散できます。特にリストラップは、ベンチプレスやダンベルカールなど手首を固定したい種目で有効です。手首の反り・ねじれを抑えることで、伸筋腱付着部への不必要なストレスを減らせます。
リストラップを装着する際は、手首の中立位を意識して巻きましょう。厚めのマジックテープタイプなら、手首全体を包むように固定できます。ただし締めすぎると血流を阻害するため、指先が冷たくなったり痺れたりしない程度に調整してください。



「リストラップをしても痛む」という相談を受けることがあります。確認すると装着位置が手首の中央ではなく、小指側に寄っていることが多いです。手首の中心を通るように巻き直すだけで、痛みが和らぐケースが少なくありません。
装着後は軽い重量で数レップ試し、手首の固定感が適切か確認しましょう。まずは普段の50%程度の重量から始めて、痛みが出ないことを確かめてから段階的に負荷を上げていってください。
痛みが出たときの対処法とセルフケア
肘の外側に痛みが出ると、「このまま続けていいのか」「いつ治るのか」と不安になりますよね。実際、私が担当した患者さんの中にも、痛みを我慢してトレーニングを続けた結果、症状が長引いてしまったケースがありました。このセクションでは、痛みが出た直後の初期対応から、自宅でできるセルフケア、そして段階的な復帰の進め方まで、理学療法士の視点で具体的に解説します。
急性期のアイシングと安静期間の目安
筋トレで肘の外側に痛みを感じたら、まずは急性期の対応が大切です。痛みが出てから24〜72時間以内は、患部を冷やすことで炎症を抑えられます。アイシングは1回15〜20分を目安に、1日3〜4回行いましょう。氷嚢を直接当てるのではなく、タオル越しにあてて凍傷を防ぎます。
この期間は原則としてトレーニングを休むことが重要です。外側上顆炎(テニス肘)は手首や指の伸筋群の腱に過負荷がかかった状態なので、無理に動かすと症状が長引きます。急性期は安静を優先し、痛みが和らいできたら次の段階に進みましょう。



私が担当した患者さんで、痛みを我慢してトレーニングを続けた結果、3週間経っても治らなかったケースがありました。最初の3日間しっかり安静にした方は、1週間で痛みが半減していました。
具体的には、痛みが出てから最低3日間は肘に負担のかかる動作を避け、痛みが引いてきたら軽い日常動作から再開していきます。このステップを守ることで、慢性化を防げます。
前腕伸筋群のストレッチ3選
肘外側の痛みを和らげるには、原因となっている前腕伸筋群(手首を反らす筋肉)の柔軟性を取り戻すことが第一歩です。これらの筋は長橈側手根伸筋・短橈側手根伸筋・総指伸筋の3つが代表的で、いずれも外側上顆(肘の外側の骨の出っ張り)から始まります。ストレッチでこの付着部の張力を緩めることが、痛みの軽減につながります。
ここでは臨床でも効果を実感している3つのストレッチを紹介します。手首の屈曲ストレッチ(腕を前に伸ばし反対の手で手首を手のひら側へ20秒引く)、回内位でのストレッチ(腕を前に伸ばし手のひらを下に向け、手首を掌側へ曲げて20秒キープ)、フィンガーストレッチ(肘を伸ばし指先を反対の手で手前に引いて20秒保持)の3種類です。どれも痛みが出ない範囲で、伸び感を感じる程度に留めてください。
ストレッチは筋トレ後や入浴後など筋肉が温まっているタイミングに行うのが効果的です。1日2〜3回を目安に、無理のない範囲で続けてみましょう。
筋力バランスを整えるエクササイズ
肘外側の痛みを根本から改善するには、手首の伸筋群と屈筋群のバランスを整えることが最も重要です。Cooper K, Alexander Lら(2023年)の系統的レビューでは、運動療法が外側上顆炎の回復に有効であることが報告されています。痛みは筋力の偏りから生じるため、弱い部分を強化しつつ過緊張している筋をほぐすアプローチが必要です。
まずはリストエクステンションで前腕伸筋群を強化しましょう。椅子に座り前腕をテーブルに乗せ、手首から先を出します。500mlペットボトルを持ち、手首を3秒かけてゆっくり上げ、3秒かけて下ろす動作を10回3セット行います。この遠心性収縮(伸びながら力を発揮する動き)が、腱組織の修復を促すと考えられています。
次に屈筋群を鍛えるリストフレクションも取り入れましょう。前腕を同じようにテーブルに乗せ、手のひらを上に向けてペットボトルを持ち、手首を曲げる動作を同様に10回3セット行います。Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy(2015年)では、伸筋・屈筋を両方鍛えることで筋バランスが整い、痛みの再発リスクが下がると示されています。
最初は軽い重量で始め、痛みが出ない範囲で週2〜3回続けてみてください。
よくある質問(FAQ)
初心者からよく寄せられる疑問にお答えします。
まとめ
筋トレで肘外側が痛むのは、手首の使い方・フォームの崩れ・筋力のアンバランスが重なって伸筋腱に過負荷がかかるからです。放置すると慢性化するため、早めの対処が重要です。
- 肘外側の痛みは上腕骨外側上顆に付着する伸筋腱の腱障害(テニス肘)
- 手首が反る・小指側に曲がる・肘が伸び切るフォームで負担が集中
- ベンチプレス・ダンベルカール・プッシュアップ・ディップスで起こりやすい
- 手首中立位・肘の角度管理・握り方の見直しで予防できる
- 痛みが出たら48時間はアイシング→伸筋ストレッチ→段階的な負荷復帰
- 伸筋群の筋力強化と前腕のバランス改善が根本的な再発予防になる
まず今週は手首を中立に保つ意識でいつもの種目を行い、違和感があればすぐに重量を落としてください。痛みが出ている場合は、伸筋ストレッチ(30秒×3回・朝晩)を3日続けてみましょう。症状が改善してきたら、リストエクステンション(500g〜1kg・15回3セット・週2回)で伸筋を強化し、再発しない体を作っていきましょう。
痛みを我慢して続けても良いことはありません。正しいフォーム・適切な負荷・段階的な復帰。この3つを守れば、肘外側の痛みは必ず改善します。
参考文献
- Manual therapy and exercise for lateral elbow pain. (Cochrane Database Syst Rev, 2024, Wallis JA, Bourne AM)
- Exercise therapy for tendinopathy: a mixed-methods evidence synthesis exploring feasibility, acceptability and effectiveness. (Health Technol Assess, 2023, Cooper K, Alexander L)
- Management of Lateral Elbow Tendinopathy: One Size Does Not Fit All. (J Orthop Sports Phys Ther, 2015, Coombes BK, Bisset L)
- 抄録 ポスター演題 / URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jelbow/32/1/32_S117/_article/-char/ja/
- 日本肘関節学会雑誌 Vol.11 No.1 / URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jelbow/11/1/11_1/_article/-char/ja/
- 日本手外科学会雑誌 / URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjssh/32/5/32_575/_article/-char/ja/
- 日本整形外科学会:テニス肘(外側上顆炎)の診療ガイドライン
- 日本理学療法士協会:上肢のスポーツ障害に対する理学療法の指針
- 厚生労働省:運動器の健康に関する指針
- 日本スポーツ協会:スポーツ障害予防のためのトレーニングガイド
- 日本体育学会:筋力トレーニングと関節障害に関する研究報告
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