ベンチプレスで重量を上げようとしたとき、手首に「ピキッ」と違和感が走ったこと、ありませんか?
フォームは意識しているはずなのに、セットを重ねるたびに手首が痛む。日常生活でも物を持つときにズキンとする。そんな悩みを抱えている方は少なくありません。
手首の痛みは「フォームの問題」だけではないのです。理学療法士として6年間、トレーニングで手首を痛めた方を数多く診てきましたが、痛みの原因は関節の構造・グリップの握り方・前腕の使い方など複数の要素が絡み合っています。
この記事では、ベンチプレスで手首が痛くなる本当の原因を3つに整理し、今日からできる具体的な対策とケア方法までお伝えします。痛みを我慢してトレーニングを続けると、三角線維軟骨複合体(TFCC)という組織を損傷し、慢性化するリスクもあります。早めに正しく対処していきましょう。
この記事でわかること
- ベンチプレスで手首が痛くなる3つの根本原因
- 痛みを防ぐための正しいグリップ位置とフォーム改善法
- 手首の痛みを軽減するリハビリとケアの具体的手順
- 手首をサポートするアイテムの選び方と使い分け
- 痛みが慢性化する前に知っておくべき対処法
ベンチプレスで手首が痛くなる3つの原因
ベンチプレスで手首が痛む方の多くが「重量を上げたから」と考えがちですが、実はバーの握り方とフォームの問題で痛めているケースがほとんどです。経験上、初心者だけでなく中級者でも手首の使い方を誤解している人は多く、そのまま続けると慢性的な痛みにつながります。ここでは、手首が痛くなる3つの代表的な原因を解剖学的な視点から解説します。
手首の過度な背屈(反り)による関節ストレス
ベンチプレス中、手首が手の甲側に大きく反った状態(過度な背屈)になると、手関節にかかる圧縮ストレスが増大します。解剖学的には、手関節の背屈角度が60度を超えると、橈骨手根関節や手根中央関節の関節面に不均等な負荷がかかり、軟骨や靭帯への微小損傷が蓄積しやすくなります。

臨床で「バーを握ったとき手首が反っていませんか?」と確認すると、多くの方が自覚なく背屈させていました。とくに重量を追い求めて無理に高重量を扱うと、手首の背屈が強まり、痛みが慢性化するケースをよく見てきました。
手首がバーの真下に入らず、手のひら側に倒れたグリップでは、関節のアライメントが崩れて負担が集中します。前腕の回内・回外の角度も影響し、手首を中間位(まっすぐ)に保てないと、関節包や三角線維軟骨複合体(TFCC)へのストレスが増します。この状態が続くと、手首の痛みだけでなく握力低下や日常動作への支障にもつながるでしょう。
グリップ位置のズレと前腕への負担
バーベルを握る位置が手のひらの中央や指寄りにずれると、手首が過度に背屈した状態でプレスすることになります。この状態では、重量が前腕の骨格ではなく手首の関節に直接かかり、手関節の掌側靭帯や三角線維軟骨複合体(TFCC)に繰り返しストレスが加わります。
解剖学的には、手首の背屈角度が大きくなるほど橈骨手根関節への圧縮力が増大し、関節軟骨への負担が高まることが知られています。特に高重量を扱う場合、前腕の回内・回外筋群が適切に働かないと、手首が不安定になり痛みが出やすくなります。
バーを握る際は、手首が真っすぐになる位置(手のひらの付け根に近い部分)でバーを保持し、前腕の骨で重量を支える意識が重要です。グリップ位置を1cmずらすだけでも手首への負荷は大きく変わります。
手首周辺の筋力不足と安定性の欠如
手首周りの筋力が不足していると、ベンチプレスでバーベルを支える際に関節が不安定になり、過度なストレスがかかります。特に前腕の屈筋群(手首を曲げる筋肉)と伸筋群(手首を反らす筋肉)のバランスが崩れていると、バーの重さに耐えきれず手関節が背屈を強いられることになります。
手首周辺の小さな筋肉や靱帯は、大胸筋や上腕三頭筋のような大きな筋肉と比べて発達しにくい部位です。そのため、ベンチプレスの重量だけを追い求めていると、手首の支持力が追いつかず痛みが出やすくなります。



経験上、重量を順調に伸ばしている方ほど手首の筋力強化を後回しにしがちです。バーベルを扱えるからと前腕のトレーニングを省略すると、ある日突然手首に違和感が出て、重量を落とさざるを得なくなったケースを何度も見てきました。
手首の安定性を高めるには、前腕屈筋・伸筋のバランスを整える補助種目を週2〜3回程度取り入れることが効果的です。リストカールやリバースリストカールといった種目で、遠心性収縮(筋肉が伸びながら力を出す動作)を意識すると、腱や靱帯への刺激も得られます。
手首の痛みを防ぐ正しいフォームと握り方
ベンチプレスで手首が痛くなる人の多くは、バーの握り方と手首の角度に問題があります。経験上、フォームを少し修正するだけで痛みが劇的に改善するケースがほとんどです。ここからは、手首に負担をかけない正しい握り方と、今日から実践できるフォームのチェックポイントを具体的に解説していきます。
手首を真っ直ぐに保つグリップの基本
ベンチプレスで手首が痛む最大の原因は、バーを握る位置が手のひらの中心より指先側にずれていること。この握り方では手首が反りすぎて(過背屈)、手関節に余計なストレスがかかります。解剖学的には、手根骨と橈骨・尺骨の関節面がズレた状態で荷重を受けることになり、関節軟骨や三角線維軟骨複合体(TFCC)への負担が増大するのです。
正しいグリップは、バーが手のひらの付け根(手掌基部)に乗る位置で握ることが基本。こうすると手首から前腕にかけての骨が一直線に並び、バーの重量を骨格で支えられます。手首を真っ直ぐに保つためには、親指をバーの下から回して「サムアラウンドグリップ」にし、手首が内側や外側に曲がらないよう固定するのがコツです。



経験上、手首の痛みを訴える方の9割以上は、握る位置を変えただけで痛みが軽減します。バーが指の付け根にかかっていると感じたら、すぐに修正してください。
バーの適切な握り位置と手のひらの使い方
バーを握る位置が手のひらの中央にずれていると、手首が過度に背屈し、関節への負担が増します。正しくは手のひらの付け根(母指球と小指球の間)にバーを乗せ、前腕とバーが一直線になる位置で握ります。この位置で握ると、手関節の背屈角度が減り、前腕の筋肉が効率よく働いて負担を分散できるのです。
具体的には、バーを握る前に手のひらを開いて手首を軽く背屈させ、その状態でバーを手のひらの付け根に当てます。その後、親指をバーの下から回してサムアラウンドグリップで握り込むと、手首の安定性が高まります。指先だけでバーを持つ握り方や、手のひらの中央で握る癖があると、手首が反りやすく痛みの原因になります。まずは軽めの重量で握り位置を確認し、前腕とバーの角度をチェックしてみてください。
肘と手首のアライメントを整えるセットアップ
ベンチプレスで手首の痛みを防ぐうえで、肘の真下にバーベルが来るようなグリップ位置を見つけることが最重要です。バーが前腕の骨の真上にセットされると、手首は過度に背屈せず中間位を保てます。この状態では手関節への剪断応力が最小化され、前腕の橈骨・尺骨が骨格として荷重を支えるため、軟部組織への負担が軽減されます。
セットアップ時は仰向けでバーを握る前に、肘を90度に曲げて手首の真上に肘が来る位置を目安にしてください。この位置でバーを握ると、バーが下りてきたときに自然と肘の真下にバーが収まります。手首が外側や内側にズレたまま握ると、動作中に手関節が不安定になり痛みにつながります。



手首の痛みを訴える人のフォームを見ると、多くの場合グリップ幅が広すぎて肘がバーより内側に入っているケースが目立ちます。この状態では手首が常に背屈を強いられ、三角線維軟骨複合体(TFCC)への負担が増します。
まずは軽い重量で肘と手首のアライメントを鏡で確認し、痛みなく動作できるグリップ幅を見つけることから始めてみましょう。
手首の痛みが出にくいベンチプレスのフォーム改善法
手首の痛みを根本から防ぐには、フォーム全体を見直す必要があります。実際、臨床で「痛くなってからグリップだけ変えた」という方を多く見てきましたが、肩や肘の使い方まで含めて調整しないと負担は残り続けます。ここでは、手首への負荷を自然に分散させるフォームの最適化を具体的に解説していきます。
手幅の調整で手首への負担を軽減する方法
ベンチプレスで手首を守る手幅は、肩幅の1.5倍程度が目安です。手幅が広すぎると肩関節への負担が増え、狭すぎると手首が過度に背屈して関節面にストレスが集中します。バーを握った状態で前腕が床に対して垂直になる位置が、手首への負担が最も少ない理想的な手幅です。
経験上、多くの人が「広い手幅のほうが大胸筋に効く」と思い込んで、手首に無理のかかる位置で固定してしまっています。実際には、適切な手幅であれば手首の関節面に無駄な剪断力がかからず、前腕の回内・回外筋群が自然に安定化に働きます。
手幅を調整する際は、まず空バー(20kg)でボトムポジションを確認しましょう。前腕が床と垂直になっているか、手首が極端に内側や外側に曲がっていないかをチェックします。適正な手幅が見つかったら、バーに印をつけておくと毎回迷わずセットできます。手幅を1cm変えるだけでも手首への負担は大きく変わるため、微調整を繰り返して自分に合った位置を見つけることが大切です。
バーの軌道と手首の角度の関係
ベンチプレスでバーを下ろす際の軌道が不適切だと、手首の角度が過度に変化して痛みの原因になります。バーは垂直に下ろすのではなく、やや斜め(胸の下部から肩に向かう軌道)に動かすのが基本です。この軌道で動かすと、前腕骨の中心線とバーが一直線上に保たれ、手首への余計なモーメント(回転力)が減ります。
一方、バーを真上から真下に降ろしてしまうと、前腕が傾いた状態でバーを支えることになり、手首が背屈(反る)方向に強制されます。解剖学的には、この背屈位で荷重がかかると、手根骨と橈骨・尺骨の関節面に不均一なストレスが集中し、TFCC(三角線維軟骨複合体)や関節包への負担が増大します。



以前、ベンチプレスで90kgを扱う方が手首の痛みを訴えて来られました。フォームを確認すると、バーを胸の真上に真っ直ぐ下ろしていたため、手首が毎回40°以上背屈していました。軌道を斜めに修正したところ、2週間で痛みが軽減しました。
まずは軽い重量でバーの軌道を意識し、手首が自然な角度を保てるか確認してみましょう。
重量設定の見直しとプログレッシブオーバーロード
手首の痛みを防ぐためには、現在の重量設定が適切かどうかを見直すことが最優先です。多くの場合、手首が痛むのは重量が自分の前腕・手首の筋力に対して過剰であることが原因となっています。バーを握る力が不足すると、手首の関節で無理に支えようとして背屈が強くなり、関節への負荷が集中してしまうのです。
まずは現在の重量から10〜20%落として、手首に痛みが出ない範囲で動作を確認しましょう。その重量で8〜12回を余裕を持って行えるなら、それがあなたの現在の「適正重量」です。痛みなくフォームを保てる重量から始め、週単位で2.5kg〜5kgずつ増やしていくプログレッシブオーバーロード(段階的負荷増加)の原則に従うことで、手首周辺の筋力も無理なく強化されていきます。
重量を追うあまり、手首の安定性を犠牲にしては本末転倒です。焦らず段階的に負荷を上げることで、結果的に痛みなく高重量を扱えるようになります。
理学療法士が教える手首の痛み対策とケア方法
ベンチプレスで手首が痛くなる方の多くは、フォームやグリップの誤りに気づかないまま「これが普通」と思い込んで続けています。経験上、正しい手首の使い方を知るだけで、その日のうちに痛みが軽減するケースも少なくありません。ここからは、理学療法士の視点で痛みを予防・改善するための具体的な対策を紹介します。
前腕の筋力強化エクササイズ3選
前腕の筋力が不足していると、ベンチプレス時のバーベルの重さを手首だけで受け止めることになり、関節への負荷が増大します。前腕屈筋群と伸筋群をバランスよく鍛えることで、手首の安定性が高まり、痛みの予防につながります。
以下の3つのエクササイズを週2〜3回程度取り入れてみましょう。
- リストカール:ダンベルを持ち、前腕を太ももに固定して手首だけを上下させる。前腕屈筋群を鍛える基本種目
- リバースリストカール:手の甲を上に向けた状態で同様の動作を行う。前腕伸筋群の強化に有効
- ハンマーカール:ダンベルを縦に持ち、肘を曲げる動作。前腕の回内・回外を制御する筋群を総合的に鍛える
いずれも軽めの重量から始め、フォームを意識して10〜15回を目安に行います。エキセントリック収縮(重りを下ろす局面)をゆっくり行うことで、筋繊維への刺激が高まり、手首周囲の安定性向上につながるのです。
手首の安定性を高めるウォームアップとストレッチ
ベンチプレスで手首の痛みを予防するには、トレーニング前に手首と前腕の可動性と安定性を確保するウォームアップが不可欠です。手首の関節は橈骨と尺骨という2本の骨と8つの手根骨から構成され、複雑な動きを可能にする反面、バーの重量が直接かかると小さな関節面に大きなストレスが集中します。そのため、動的ストレッチで関節可動域を確保し、前腕の屈筋群と伸筋群を活性化させることが重要になります。
具体的には、手首の屈曲・伸展を各10回ずつゆっくり繰り返し、続いて回内・回外運動で前腕の深層筋を目覚めさせます。さらに、指を開閉する動作を加えることで、手根骨間の微細な動きを引き出し、グリップ時の安定性が高まります。経験上、ウォームアップを省略してすぐにバーを握ると、手首が硬いまま負荷を受けて痛めやすくなります。
トレーニング後は静的ストレッチで前腕の緊張を緩和し、手首の柔軟性を維持しましょう。壁に手のひらを押し付けて体重をかける壁ストレッチや、前腕のマッサージで筋肉の血流を促すと、回復が早まります。
トレーニング後のクールダウンとアイシング
トレーニング後の血流増加により、炎症反応を速やかにコントロールすることが手首の回復を促進します。運動直後は手首周辺の軟部組織が微細な損傷を受けやすく、特に前腕屈筋群や手根部の腱にストレスが残っている状態です。そのため、トレーニング後の5〜10分程度のクールダウンで手首をゆっくりと回す・軽く背屈と掌屈を繰り返すといった静的ストレッチを行うと、筋繊維への血流が改善され乳酸の除去が促されます。
痛みや熱感がある場合は、運動後30分以内にアイシングを行うのが効果的です。氷嚢やアイスパックを手首の痛む部位に10〜15分程度当て、炎症の拡大を抑えましょう。冷却により血管が一時的に収縮し、その後の血流回復で組織修復が促進されるという生理学的メカニズムが働きます。ただし、長時間の冷却は逆に血流を阻害するため、15分以上は避けてください。



経験上、トレーニング直後のアイシングを習慣化している方は、慢性的な手首の痛みへの移行が少ない傾向にあります。
手首をサポートするアイテムの選び方と使い方
フォームを修正しても手首の痛みが残る場合、リストラップなどのサポートギアを使うことで負担を軽減できます。ただし、ただ巻けばいいわけではなく、適切な選び方と使い方を知らないと効果は半減してしまいます。ここでは、理学療法士の視点から実践的なギアの活用法を解説します。
▶ サポートアイテム選び
リストラップの正しい巻き方と効果
リストラップは、手首を物理的に固定し関節の過度な背屈を抑えることで、ベンチプレス中の手首への負担を大幅に軽減します。巻き方のポイントは、手首の真上ではなく手のひら寄り(手根骨の位置)にラップの中心を合わせること。こうすることで、バーベルを握った際に前腕と手の角度がニュートラルに近づき、関節面へのストレスが分散されます。
締め付け具合は、血流を妨げない程度にしっかりと巻くのが基本です。あまりに緩いと固定効果が得られず、逆にきつすぎると指先のしびれや筋出力の低下を招きます。目安としては、巻いた状態で指が1本入る程度の余裕を残すとよいでしょう。



私が見てきた中で、リストラップを正しく使えている人は意外と少ない印象です。手首の真上だけをぐるぐる巻きにして「効果がない」と言う人もいますが、巻く位置を手のひら寄りに変えるだけで痛みが消えるケースは珍しくありません。
リストラップを使うことで、高重量でも手首の背屈が抑えられ、関節への物理的負荷が軽減されます。ただし、あくまで補助であり、フォームや握り方の改善と併用してこそ効果を発揮します。
テーピングによるサポートの実践方法
テーピングは、手首の過度な背屈を物理的に制限しながら、固有感覚を高めて安定性を向上させる効果があります。ベンチプレスで手首が痛む場合、手関節の背屈角度が大きくなりすぎることで関節包や靱帯にストレスがかかっているケースが多く、テーピングによる適度な制動が痛みの軽減につながります。
テープの種類は、伸縮性のあるキネシオロジーテープと非伸縮性のホワイトテープに大別されます。キネシオテープは皮膚を持ち上げて血流を促進し、軽度の不安定感を改善するのに向いています。一方、ホワイトテープは関節の可動域を明確に制限できるため、痛みが強い場合や高重量を扱う際に有効です。巻き方の基本は、手首の掌側から背側にかけて横8の字を描くように固定し、背屈を抑えつつ握力を妨げない程度の張力で巻くことです。
ただし、テーピングはあくまで補助手段であり、根本的なフォーム改善や筋力強化を並行して行わなければ、痛みの再発を防ぐことはできません。
サポーターの種類と選び方のポイント
ベンチプレスで手首が痛む場合、リストラップかリストストラップ(またはリフティングストラップ)のどちらを選ぶべきか迷う人が多いのですが、ベンチプレスでは手首を固定するリストラップが基本です。リストラップは手首関節の過度な背屈を防ぎ、前腕とバーベルの角度を自然に保つことで関節へのストレスを軽減してくれます。選び方のポイントは以下の3つです。
- 長さ:初心者は30〜40cm、中級者以降は50〜60cmが目安。長いほど固定力が増しますが、巻くのに慣れが必要です
- 硬さ:硬めのほうが安定性が高い一方、手首の動きが制限されるため、痛みの程度に応じて選びましょう
- 素材:伸縮性のある素材は装着感が良く、硬めのコットン素材は固定力が強い傾向にあります



私が担当した患者さんで、自己流のサポーター選びで痛みが改善しなかった方がいました。柔らかすぎるリストラップを使っていたため、手首が内側に曲がる動きを十分に抑えられていなかったのです。
自分の手首の状態・扱う重量・痛みの程度を踏まえて、段階的に試してみてください。
手首の痛みが続く場合の対処法と受診の目安
フォームを改善してもなかなか痛みが引かない、という相談を受けることがあります。手首の痛みは適切な対処をすれば数日から2週間ほどで落ち着くことが多いのですが、それ以上続く場合は別の原因が隠れている可能性があります。ここでは痛みが長引くときの判断基準と、受診を検討すべきタイミングについて整理しておきましょう。
TFCC損傷など疑うべき症状のサイン
ベンチプレスでの手首の痛みが休養しても改善しない場合、TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷の可能性を考える必要があります。TFCCは手首の尺側(小指側)で関節を安定させる軟骨組織で、過度な背屈や回旋動作の繰り返しで損傷しやすい構造です。



臨床でよく見るのは、手首を過度に背屈させたままバーベルを握り続けた結果、尺側に持続的なストレスがかかってTFCCを痛めてしまうケースです。ドアノブを回す動作や手をついたときに手首の小指側に鋭い痛みが出る方は、早めに整形外科を受診することをお勧めしています。
手首を動かすたびに引っかかる感覚がある、あるいは安静時でもズキズキと痛む場合は、単なる筋肉痛ではなく組織損傷のサインかもしれません。日常動作に支障が出る前に、専門医による画像診断(MRIなど)を受けることが重要です。
トレーニングを休むべきタイミングの判断
手首の痛みが出たときは、「動かしたときに痛むかどうか」を基準に判断するとわかりやすいです。日常生活で物を持つ・ドアノブを回すといった動作で痛みが出る場合、すでに関節や腱に炎症が広がっている可能性があります。この段階でトレーニングを続けると、手根骨(手首の小さな骨)周辺の組織にさらに負担がかかり、回復が遅れます。
痛みが安静時にもある、朝起きたときに手首がこわばる、といった症状が出ている場合は、トレーニングを一時中断し、2週間程度様子を見ることをおすすめします。その間、痛みの出ない範囲で軽い可動域運動を続けるのは問題ありません。反対に、運動中だけ軽く違和感がある程度なら、重量を落として週2〜3回程度の頻度で様子を見ながら続けてもよいでしょう。
判断に迷う場合は、無理をせず早めに専門家に相談することが、長期的にトレーニングを続けるうえで最も確実な選択です。
医療機関の受診が必要なケースと治療法
セルフケアや休養を行っても痛みが2週間以上続く場合や、日常生活に支障が出ている場合は、整形外科を受診してください。手首の痛みの背景には、三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷や手根骨の炎症、腱鞘炎など、画像診断でなければ判別できない病態が隠れている可能性があります。レントゲンやMRIで骨や軟部組織の状態を確認し、必要に応じて固定やリハビリテーションといった専門的な治療を受けることが重要です。



経験上、痛みが長引くと代償動作が習慣化し、肩や肘への二次的な負担が広がるケースをよく見ます。特に急激な腫れ・しびれ・握力低下がある場合は早めの受診を心がけましょう。医師の診断のもと、理学療法士による関節可動域訓練や筋力強化が処方されれば、安全にトレーニングへ復帰できる道筋が立ちます。
よくある質問(FAQ)
初心者からよく寄せられる疑問にお答えします。
Q: ベンチプレスで手首が痛くなる主な原因は何ですか?
**手首の過度な背屈(反り返り)と、不適切なグリップ位置が主な原因です。**バーを手のひらの中心より指側で握ると、手首が反った状態で重量を支えることになり、手関節に過度なストレスがかかります。さらに前腕の筋力不足も、手首の安定性を欠く原因となります。経験上、特に初心者は無意識に手首を反らせてしまうことが多く、これが慢性的な痛みにつながっているケースを多数見てきました。グリップの位置を見直すだけで、劇的に痛みが軽減することもあります。
Q: 手首の痛みを防ぐための正しいフォームはありますか?
バーを手のひらの付け根(手根部)に乗せ、手首をまっすぐ保つことが最重要です。手首が反らないよう、グリップの際に前腕とバーが一直線になるよう意識しましょう。握り幅は肩幅より拳1〜2個分広めが目安で、バーを下ろす位置は乳頭の高さが基本です。肘を過度に開きすぎると手首への負担も増えるため、肘の角度は45〜60度程度に収めてください。まずは空バー(20kg)で10回3セット、このフォームを体に染み込ませることから始めてみましょう。
Q: 手首の痛みが出た場合、トレーニングを中止すべきですか?
**軽い違和感程度なら重量を落として継続可能ですが、鋭い痛みが出たらその日は中止してください。**痛みがあるのに無理を続けると、三角線維軟骨複合体(TFCC)という手首のクッション組織を損傷し、慢性化するリスクがあります。中止後は手首のアイシング(15分程度)と安静を優先し、2〜3日様子を見ましょう。痛みが1週間以上続く、または日常生活で物を持つときにも痛む場合は、専門医の診察を受けることをおすすめします。無理は禁物です。
Q: 手首を保護するためのサポーターやテーピングの効果は?
**リストラップ(手首サポーター)は手首の安定性を高め、過度な背屈を防ぐ効果があります。**特に高重量を扱う際には有効で、手首への負担を20〜30%軽減できるといわれています。ただし根本的な解決にはならず、フォーム改善と並行して使うべきです。テーピングも同様の効果がありますが、巻き方が適切でないと逆効果になることも。まずは正しいフォームを習得し、その上で補助的にサポーターを活用する順番が理想的です。サポーターに頼りすぎて前腕の筋力が育たない、というのも避けたいポイントです。
Q: 手首の痛みが慢性化した場合、どのような治療が必要ですか?
**慢性化した場合は理学療法や作業療法によるリハビリテーションが推奨されます。**具体的には、手首の可動域改善エクササイズ、前腕の筋力強化、エキセントリック(伸張性)トレーニングなどを段階的に行います。TFCC損傷が疑われる場合はMRI検査を受け、損傷の程度によっては固定療法や注射治療、重症例では手術が必要になることもあります。臨床で見てきた限り、早期に適切な対処をした人ほど回復が早く、トレーニングへの復帰もスムーズです。我慢せず、早めに専門家へ相談しましょう。
まとめ
ベンチプレスで手首が痛くなる原因は、バーの握り方・手首の寝かせすぎ・フォームの乱れの3つです。 正しい握り方とフォームを身につければ、手首への負担は大幅に減らせます。
- バーは手のひらの付け根(手根部)で受けて、指で軽く包むように握る
- 手首は常に真っすぐ保ち、バーの真下に肘が来るフォームを意識する
- 痛みが出たら重量を落とし、フォームを見直してから段階的に戻す
- リストラップは正しいフォームを習得してから補助として使う
- 痛みが1週間以上続く、もしくは力が入らない場合は早めに受診する
まずは今日から、バーを手のひらの付け根で受ける握り方を試してみてください。鏡で手首の角度を確認しながら、軽い重量でフォームを固めていきましょう。具体的な1週間のリハビリプログラムと段階的な重量設定については、noteで詳しく解説しています。正しいフォームを身につければ、手首を気にせず安心してベンチプレスを続けられるはずです。
参考文献
- 信州大学医学部附属病院 整形外科の上肢班による肘部管症候群の解説(https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/chair/i-seikei/case-upper.html)
- 国立長寿医療研究センターによるしびれの原因に関する解説(https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/20211201.html)
- 厚生労働省による医療安全対策の記述情報分析(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/1/syukei12/kijyutsu13.html)
この記事の著者について
ゆいと(理学療法士)
総合病院で6年間、急性期から回復期、訪問リハビリまで幅広く携わってきた現役の理学療法士です。さまざまな状態の患者さんのリハビリに関わりながら、自身もトレーニング歴6年以上。臨床で得た体の仕組みの知識と実際のトレーニング経験の両方を活かし、「痛めない・不調を治す筋トレ」をテーマに発信しています。
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