ショルダープレスをしていて、突然肩に鋭い痛みが走った経験はありませんか。フォームには気をつけているつもりなのに、なぜか肩だけが痛い。
そんな声を、トレーニング指導の現場でよく耳にします。
実はショルダープレスの肩の痛みは、フォームの間違い探しだけでは解決しないケースが多くあります。ベンチプレスとはまったく逆の肩甲骨の使い方が必要な種目であること、そして胸椎という背骨の可動域が関係しているからです。
この記事では、理学療法士としての視点から痛みの構造的な原因を整理し、セルフチェックと対策までの手順をお伝えします。
この記事でわかること
- ショルダープレスとベンチプレスで肩甲骨の使い方が逆になる理由
- 胸椎の可動域不足がバー軌道を崩し肩を痛める仕組み
- 肩を痛めないフォームとやりがちなNG動作
- 種目ごとの肩への負荷差と代替エクササイズの選び方
- 有痛弧テストで痛みの角度域を特定する方法
ショルダープレスとベンチプレスは肩甲骨の使い方が真逆
同じ「押す」動作でも、ショルダープレスとベンチプレスでは肩甲骨の役割がまったく異なります。この違いを知らずにいると、フォームの土台からズレてしまいます。
ベンチプレスに慣れている方ほど、同じ感覚のままショルダープレスを行いがちです。フォームの土台がどう変わるのか、比較しておくと安心です。
ベンチプレスは肩甲骨を固定して押す種目
ベンチプレスでは肩甲骨をベンチに寄せて固定し、土台として使います。肩甲骨を動かさないことで、大胸筋の力を効率よくバーへ伝える仕組みです。安定した支点があるからこそ、高重量を扱えます。
ショルダープレスは肩甲骨を動かして挙げる種目
一方ショルダープレスでは、腕が上がるほど肩甲骨も上方回旋しながら動く必要があります。これは肩甲上腕リズムと呼ばれる連動です。バー軌道の後半、肩甲骨が動かないと肩関節だけで挙げ切ることになります。
ベンチプレスのフォーム意識を持ち込むと痛める理由
ベンチプレスの経験が長い人ほど、肩甲骨を寄せて固定したままショルダープレスを行いがちです。この状態で腕を高く上げると、肩関節に過度な負担がかかるため注意が必要です。動きの構造が違う種目だと理解することこそ、痛み予防の第一歩といえるでしょう。
胸椎伸展可動域の不足がバー軌道を崩し肩を痛める機序
見落とされやすいのが、背骨の一部である胸椎の硬さです。肩そのものではなく、離れた部位の可動域不足が痛みにつながります。
胸椎が硬いとバーが前方に流れる理由
胸椎の伸展可動域が不足すると、上体を反らせずに腕を真上へ上げられません。その結果、バーが前方へ流れて肩関節に斜めの負荷がかかります。胸椎の硬さは肩甲骨の上方回旋も制限してしまいます。
反り腰や肩すくめといった代償動作との関係
胸椎が動かない分を、腰椎の反りや肩すくめで代償する人も少なくありません。これは代償動作と呼ばれるパターンです。本来動くべき関節が動かないと、別の関節が無理を強いられます。
胸椎可動域の簡易チェックと改善ストレッチ
壁に背をつけて後頭部・肩甲骨・お尻がつくか確認してみましょう。つかない場合は胸椎伸展が制限されているサインです。フォームローラーを使った胸椎エクステンションを、トレーニング前に10回×2セット行ってみてください。
肩を痛めないショルダープレスの正しいフォームとNG動作
構造の違いを理解したら、次は具体的なフォーム修正です。今日のセットからすぐに見直せるポイントを整理します。
肩の前側に痛みが出ている場合は、原因の切り分けから始めると回り道になりません。
▶ 肩前部の痛み対処
グリップ幅とバー軌道の基本
グリップ幅は肩幅よりやや広め、肘が真下に来る位置が基本です。バーは顔の前を通し、耳の横まで一直線に上げ下げします。軌道が前後にブレないか、鏡でチェックしてみましょう。
肘と手首の正しいポジション
手首は反らしすぎず、前腕とバーが一直線になる角度を保つことが大切です。肘は開きすぎず、肩関節の真下からやや前方が目安になります。手首が反りすぎると力が分散し、肩への負担が増すため注意しましょう。
やりがちなNGフォーム
ほかにも、次の2点に気をつけましょう。
- 肘を耳より後ろに引きすぎない:肩関節にひねりが加わりやすいため、肘は真下からやや前方の位置を保つ
- 可動域を欲張って挙げ切ろうとしない:無理のない範囲で止めることが、肩を守る近道になる
種目バリエーション別・肩への負荷差と代替種目の選び方
同じショルダープレス系種目でも、バリエーションごとに肩への負荷は大きく異なります。自分の肩の状態に合わせて選ぶ視点が必要です。
ビハインドネックプレスが危険な理由
ビハインドネックプレスは肩関節を過度に外旋させる姿勢を伴います。肩甲上腕関節の可動域を超えやすい種目とされ、避ける選択が無難でしょう。ただし適切なフォームで軽負荷から行えば安全とする見方もあり、評価が分かれる種目です。

バーベル・ダンベル・マシン・アーノルドプレスの負荷比較
| 種目 | 肩への負荷特性 |
|---|---|
| バーベル | 軌道固定で高重量向き、肩の柔軟性を要求 |
| ダンベル | 自由な軌道で肩の代償を減らしやすい |
| マシン | 軌道が安定し初心者・リハビリ向き |
| アーノルドプレス | 回旋動作が加わり中〜上級者向き |
痛みが出た場合の代替種目選定基準
肩に痛みが出た場合は、可動域が固定されるマシンショルダープレスへ切り替えるのが安全です。それでも痛い場合は、フロントレイズなど挙上角度の浅い種目に変更しましょう。まずは痛みの出ない角度内で刺激を与える発想が大切です。
有痛弧セルフチェックで痛みが出る角度域を特定する
痛みの原因を絞り込むには、どの角度で痛いのかを特定する作業が欠かせません。そこで役立つのが、有痛弧テストという方法です。
セルフチェックで痛みの範囲が分かった後、次に何をすべきか気になる方は多いはずです。
▶ 肩痛時の対処法
有痛弧(painful arc)テストのやり方
腕を体側から真横に上げていき、どの角度で痛みが出るか確認します。60〜120度付近で痛みが出る場合は有痛弧陽性と呼ばれる反応です。

Br J Sports Medに2012年に掲載された研究では、有痛弧テストが肩関節の病態評価に一定の臨床的価値を持つことが示されています。
Which physical examination tests provide clinicians with the most value when examining the shoulder? Update of a systematic review with meta-analysis of individual tests.
痛めた直後に別種目を続けると悪化しやすい理由
角度域別に見る痛みの原因と対処方針
| 痛みが出る角度 | 想定される原因 |
|---|---|
| 0〜60度 | 腱板の炎症・筋損傷の可能性 |
| 60〜120度 | 肩峰下でのインピンジメント |
| 120度以上 | 肩甲骨の動き不足による代償 |
角度によって原因の見当がつけば、対処の優先順位も見えてきます。まずは自分の痛い角度を記録し、次のトレーニング計画に生かしましょう。
よくある質問(FAQ)
初心者からよく寄せられる疑問にお答えします。
まとめ
ショルダープレスの肩の痛みは、フォームだけでなく肩甲骨の使い方と胸椎可動域という構造的な要因が絡んでいます。原因を分解して考えることが、再発を防ぐ近道です。
- ベンチプレスとショルダープレスは肩甲骨の使い方が真逆
- 胸椎伸展可動域の不足がバー軌道を崩し肩に負担をかける
- グリップ幅・肘位置・反動の有無をフォームチェックする
- ビハインドネックプレスは無理に選ばず安全な種目を優先する
- 有痛弧テストで痛みの角度域を把握する
まずは今日、壁を使った胸椎チェックと有痛弧テストを試してみましょう。1週間、痛みの出ない角度内でマシンショルダープレスに切り替えて様子を見るのも有効です。痛みが2週間以上続く場合は、迷わず医療機関を受診してください。
参考文献
- Which physical examination tests provide clinicians with the most value when examining the shoulder? Update of a systematic review with meta-analysis of individual tests. (Br J Sports Med, 2012, Hegedus EJ, Goode AP) / URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22773322/
- Pectoralis Major Rupture. (J Orthop Sports Phys Ther, 2017, Shumway JD, Anderson DN) / URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28760091/
- Relationship between strength training and shoulder pain in male and female water polo players. (J Exerc Rehabil, 2023, Barrenetxea-Garcia J, Gil SM) / URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38188131/
- 国立長寿医療研究センター「肩の痛みの原因は?」 (ncgg.go.jp)
- 医療法人芳泉整形外科「肩が痛い」 (hosen.or.jp)
- 医誠会国際総合病院「肩の痛み特設サイト」 (iseikaihp.or.jp)
- 日本整形外科学会「胸郭出口症候群」 (joa.or.jp)
- イノルト整形外科「肩の痛みの原因とは?自宅でできるセルフケアや受診の目安」 (inoruto.or.jp)
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