ベンチプレスで肩が痛い原因と正しいフォーム|理学療法士が教える5つの改善策

ベンチプレスで肩が痛い原因と正しいフォーム

ベンチプレスで肩が痛い原因と正しいフォーム|理学療法士が教える5つの改善策

ベンチプレスで重量を上げていくにつれて、肩の前側がズキッと痛む。バーを下ろすたびに肩から変な音がする。トレーニング後、肩が動かしづらくなる――こんな経験、ありませんか?

実はベンチプレスでの肩の痛み、多くはフォームの微妙なズレが原因です。私が理学療法士として患者さんやトレーニーの動きを見てきた中で、肩甲骨が固定できていないグリップ幅が合っていない、そして肩の安定性が足りないという3つのパターンが圧倒的に多い。どれも重量を扱えるようになるほど、痛みとして表面化しやすくなります。

肩は本来、安定した土台の上で自由に動くべき関節。その土台が崩れたまま高重量を扱えば、インピンジメント症候群(肩峰下で腱が挟まれる状態)を引き起こし、慢性的な痛みにつながります。この記事では6年間のトレーニング経験と臨床の視点から、肩を痛めないベンチプレスの正しいフォーム5つのポイントと、痛みが出たときの対処法まで解説します。

目次

この記事でわかること

  • ベンチプレスで肩が痛くなる5つの原因と見分け方
  • 肩を守るための正しいフォーム(肩甲骨の固定・グリップ幅・軌道)
  • 理学療法士が解説する肩のインピンジメント症候群とベンチプレスの関係
  • 肩の安定性を高めるローテーターカフ強化エクササイズ3選
  • ベンチプレスで肩を痛めたときの対処法と復帰までの流れ

ベンチプレスで肩が痛くなる5つの原因

ベンチプレスで肩が痛くなる人を見ると、フォームのどこか一点に必ず原因が隠れています。経験上、多くの方は「胸を効かせよう」と意識するあまり、肩に無理な負担をかけてしまっているのです。ここでは理学療法士として臨床で見てきた、肩の痛みを引き起こす5つの典型的な原因を解説します。

肩甲骨が固定されていない

ベンチプレスの動作中、肩甲骨が背中に対して正しく固定されていないと、肩の前方に過剰なストレスがかかります。肩甲骨を寄せて下げた状態(肩甲骨の内転・下制)を維持することで、上腕骨頭が肩甲骨の受け皿(関節窩)に安定して収まり、肩関節のインピンジメント(挟み込み)を防げます。

私が見てきた中で、「ベンチプレスで肩が痛い」と訴える方の大半は、バーを下ろすときに肩甲骨が外転(離れる)してしまい、肩が前に出ている状態でした。この代償動作が習慣化すると、肩峰下スペースが狭くなり、腱板や滑液包が挟まれて炎症を起こします。

肩甲骨を固定するには、セット前に「肩甲骨を寄せて下げる」動作を意識し、ベンチに背中をしっかり押し付けることが重要です。

Strömbäck & Aasa(2018年)の調査でも、パワーリフターの肩の痛みの多くは肩甲骨の安定性不足に起因していると報告されています。特にバーを下ろす局面(遠心性収縮)で肩甲骨が緩むと、ローテーターカフ(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)への負担が増大します。

まずは軽めの重量で、肩甲骨の位置を保ったまま動作できるか確認してください。肩甲骨周囲筋(菱形筋・僧帽筋下部)の強化には、バンドプルアパートやフェイスプルなどの補助種目が効果的です。

グリップ幅が適切でない

グリップ幅が広すぎると、肩関節の外転角度が大きくなり、肩峰下スペースが狭まって腱板や滑液包が挟まれやすくなります。この状態が続くと、インピンジメント症候群のリスクが高まります。特にバーを下ろす遠心性収縮のフェーズで、肩の前面に痛みを感じるケースが多い。

逆に狭すぎるグリップでは、肩関節の内旋が強制され、肩の後方や腱板に負担が集中します。適切なグリップ幅は肩幅の1.5倍(バーに手を置いたとき前腕が垂直になる位置)が目安です。McCurdy & Langford(2009)の研究でも、グリップ幅と関節負担の関係が示されています。

私が担当した30代の男性は、「重量を伸ばしたい」と広めのグリップに変えた結果、2週間で肩前面に痛みが出現しました。グリップを肩幅1.5倍に戻し、肩甲骨の安定性を強化したところ、4週間で痛みが消失しました。

グリップ位置を見直すだけで、肩への負担は劇的に軽減できます。次回のトレーニングでバーの握り位置を確認してみてください。

バーを下ろす位置が高すぎる

バーを鎖骨に近い位置まで下ろしてしまうと、肩関節は水平伸展と外旋が強制され、肩峰下スペースが狭まります。この動作は棘上筋腱や肩峰下滑液包を圧迫し、インピンジメント症候群のリスクを高めます。

経験上、肩の前方に痛みを訴える方の多くは、バーをみぞおちより上に下ろしています。適切な位置は乳頭の高さから少し下(みぞおちとの中間)です。この位置なら肩関節の外転角度は約45〜60°に収まり、肩峰下のスペースを確保したまま大胸筋に負荷を集中させられます。

以前、肩の前方が痛むという30代の方のフォームを確認したところ、バーを鎖骨近くまで下ろしていました。下ろす位置を乳頭ラインに修正しただけで、2週間後には痛みが消失していました。

バーを下ろす位置を見直すだけで、肩関節の負担は大幅に軽減されます。次回のトレーニングで、バーがどこに触れているか確認してみてください。


肩を痛めないベンチプレスの正しいフォーム5つのポイント

ベンチプレスで肩を痛める人の多くは、フォームのどこかに共通した問題を抱えています。経験上、肩甲骨の位置・肘の角度・バーの軌道の3点を意識するだけで、痛みが大幅に軽減されるケースがほとんどです。ここからは、今日から実践できる5つの具体的なポイントを順番に解説していきます。

大胸筋の働き

肩甲骨を寄せて下げた状態でベンチに固定する

ベンチプレスで肩を痛める最大の原因は、肩甲骨が浮いたままバーを下ろしてしまうことです。肩甲骨を寄せて下げた状態でベンチに固定することで、肩関節の安定性が確保され、インピンジメント症候群(肩峰下で腱板が挟まれる状態)のリスクを大幅に減らせます。

具体的には、ベンチに寝る前に両肩を耳に近づけるように上げ、そこから肩甲骨を背骨に寄せながら下げていきます。この状態でベンチに背中をつけると、肩甲骨がベンチに押しつけられた安定したポジションになります。

私がよく見るのが、バーを下ろすときに肩甲骨が浮いて肩が前に出てしまうパターンです。これだと肩関節が不安定になり、腱板に過度な負担がかかります。

肩甲骨の固定が甘いと、挙上時に肩が前方に流れて「肩が抜けそうな感覚」や「肩の前が痛む」症状が出やすくなります。セット中も常に肩甲骨をベンチに押しつける意識を持ち続けることが、痛みを防ぐ第一歩です。

自分に合ったグリップ幅を見つける方法

基本は肩幅より拳1〜2個分広い幅からスタートしてください。この幅であれば大胸筋への負荷を確保しつつ、肩関節の内旋・水平内転の角度が過度にならず、肩の前方へのストレスを抑えられます。ただし、この目安が全員に当てはまるわけではありません。

腕の長さ・肩の柔軟性・既往歴によって最適なグリップ幅は変わるため、実際にバーを握って肘の角度を確認する必要があります。バーがみぞおち〜乳頭の高さに降りたとき、肘の角度が90°前後になるのが理想です。肘が90°より鋭角になると肩へのストレスが増え、鈍角だと大胸筋への刺激が弱まります。

私がよく見るのは、肩が硬い人ほど無意識に手幅を狭くしているケースです。実際に肩関節の可動域を測定すると、肩関節の水平外転が健常者より10〜15°制限されていることがあります。このような場合、無理に広げると肩関節のインピンジメント(棘上筋腱や滑液包の挟み込み)を招くため、まずはストレッチで可動域を広げてからグリップ幅を調整しました。

初心者は81cmのラインを目安に親指1本内側から始め、10回3セットを痛みなく続けられるか確認してください。痛みが出たら幅を狭め、物足りなければ次回のセッションで少しずつ広げていく段階的アプローチが安全です。

バーは乳首からみぞおちの間に下ろす

バーを下ろす位置は、肩関節の安定性を大きく左右します。乳首からみぞおちの間に下ろすことで、肩関節への負担を最小限に抑えられるのです。

多くの人が無意識に鎖骨や肩の真下にバーを下ろしています。この位置だと肩関節が過度に屈曲し、肩峰下スペースが狭まります。すると棘上筋や上腕二頭筋長頭腱が挟まれ、インピンジメント症候群を引き起こす原因になるのです。乳首よりやや下、みぞおちに近づけると肩甲骨が自然に寄り、肩関節は安定したポジションを保てます。

私がよく見るのは「バーを鎖骨付近に下ろして肩前部が痛む」という訴えです。位置を修正しただけで、次のセットから痛みが消えることも珍しくありません。

実際に確認する方法は簡単です。空バー(20kg)で仰向けになり、肘を90°に曲げた状態でバーを下ろしてみましょう。肩の前側に詰まり感があればバーが上すぎます。違和感がなく、肘が体側より少し後ろに引けるポジションが正解です。

この位置なら肩関節の屈曲角度は約45°に収まり、肩峰下スペースが保たれます。痛みのないフォームで重量を伸ばせるようになるでしょう。


理学療法士が解説|肩のインピンジメント症候群とベンチプレス

ベンチプレスで肩が痛くなる原因として、臨床でもっともよく見るのが「インピンジメント症候群」です。肩関節の内部で腱や組織が挟まれて炎症を起こす状態で、フォームの問題が引き金になっているケースが大半を占めます。

インピンジメント症候群のメカニズム

肩のインピンジメント症候群は、肩峰と上腕骨頭の間のスペース(肩峰下腔)が狭くなり、腱板や滑液包が挟まれて炎症を起こす状態です。肩峰下腔は健常者でも7〜14mm程度しかなく、この狭い空間で腱板(特に棘上筋)が肩甲骨の肩峰との間で圧迫を受けます。

McCurdyら(2009年)の研究では、ベンチプレス時のフォーム不良が肩関節の疼痛と関連することが示されています。
ベンチプレスでは、バーを下ろす動作で肩関節が水平内転・内旋しながら屈曲します。この複合的な動きの中で、肩甲骨の動きが不十分だと上腕骨頭が前方に偏位しやすくなり、肩峰下腔がさらに狭まるのです。

特に、肩甲骨を寄せず(リトラクション不足)にバーを下ろすと、棘上筋腱が肩峰と上腕骨頭の間で繰り返し摩擦を受けます。これが炎症の引き金となり、肩の前方に痛みや引っかかり感として現れるわけです。適切なフォームで肩甲骨の安定性を保つことが、インピンジメントを防ぐカギとなります。

ベンチプレスで起こりやすいインピンジメントのパターン

ベンチプレスで起こるインピンジメントには、いくつか典型的なパターンがあります。最も多いのが肩峰下インピンジメントで、バーを下ろす動作で肩関節が内旋・前方に偏ると、肩峰と上腕骨頭の間にある腱板組織が挟まれて炎症を起こします。Strömbäck & Aasa(2018年)のパワーリフター調査でも、肩関節痛の原因として肩峰下スペースの狭窄が高頻度で報告されています。

もう一つのパターンが前方不安定性によるインピンジメントです。肩甲骨の安定性が不十分なまま重量を扱うと、上腕骨頭が前方にずれ、関節唇や前方関節包に負担がかかります。特にベンチプレスでは肩甲骨を寄せて下制する動作が求められますが、これが不十分だと肩の前側に「抜けそうな感覚」や「引っかかり」が生じます。

私が見てきたケースでも、肩甲骨周囲筋(菱形筋・前鋸筋)の弱さが原因で、動作中に肩が前に出てしまう方が非常に多くいました。

このように、フォームの崩れが肩峰下スペースや関節包に機械的ストレスを与え、結果としてインピンジメント症候群を引き起こすのです。

インピンジメントを予防するフォームチェックポイント

ベンチプレスで肩にインピンジメントを起こさないためには、肩甲骨の安定性が最優先です。多くの場合、バーを下ろすときに肩甲骨が外転(外側に開く)してしまい、肩峰下スペースが狭くなって腱板が挟まれます。

まず、ベンチに仰向けになった時点で肩甲骨を寄せて下げ、肩甲骨の下角(下端)をベンチに押し付けるイメージを持ちましょう。この状態を挙上・下降動作の全体で維持することが、インピンジメントの予防につながります。バーを下ろす位置は胸の中部からみぞおち付近が目安です。鎖骨や肩のラインより上に下ろすと、肩関節が過度に屈曲して肩峰下スペースが圧迫されます。

臨床でよく見るのは、重量を追いすぎて肩甲骨の安定性が崩れているケースです。フォームチェックで肩甲骨の動きを修正しただけで、痛みが消えた例は少なくありません。

グリップ幅は肩幅の1.5倍程度を基本とし、あまり広すぎると肩関節の外転角度が大きくなってインピンジメントのリスクが高まります。まずは軽めの重量でフォームを固めることから始めてみてください。


肩の安定性を高めるローテーターカフ強化エクササイズ3選

ここまで解説してきたフォームのポイントを実践しても、そもそも肩関節を安定させる筋力が不足していると、正しい動きを維持できず痛みが再発します。経験上、ベンチプレスで肩を痛める人の多くは、ローテーターカフ(肩のインナーマッスル)が弱く、肩甲骨の動きをコントロールできていません。ここでは、自宅でも簡単に取り組めて効果的な3つのエクササイズを紹介します。

エクスターナルローテーション(ゴムチューブ)

ゴムチューブ(またはケーブルマシン)を使ったエクスターナルローテーションは、棘下筋と小円筋を集中的に鍛えられる最も基本的なローテーターカフトレーニングです。この2つの筋肉は肩関節の外旋を担当し、ベンチプレス時に上腕骨頭を関節窩に引きつける役割を果たします。

肘を体側に固定し、前腕だけを外側に動かすことで、遠心性収縮(戻す局面)でも筋繊維に持続的な緊張を与えられます。ベンチプレスで肩の前方が痛む人の多くは、この外旋筋群が弱く上腕骨頭が前方に偏位している状態です。実際、臨床でこのエクササイズを2週間続けてもらうだけで、肩の安定感が明らかに向上するケースが多い。

チューブの負荷は、15〜20回を3セット行える程度が目安です。動作は肘を90°に保ちながら、前腕を外側へゆっくり2秒で開き、戻すときも2秒かけてコントロールします。肩をすくめないよう、肩甲骨は下制・後退した状態を維持してください。週2〜3回の頻度で継続すると、ベンチプレス時の肩の安定性が体感できるようになります。

フェイスプル

フェイスプルは、ベンチプレスで不足しがちな肩の後方と肩甲骨周囲筋を同時に鍛えられる種目です。ケーブルマシンやゴムバンドを使い、肩の高さで引くことで棘下筋・小円筋(外旋筋群)と僧帽筋中部・下部を効率的に刺激できます。ベンチプレス後に肩の後ろ側が硬直する人は、この種目を必ず取り入れましょう。

経験上、ベンチプレス中心で肩の後ろを全く鍛えていない方が、フェイスプルを週2回追加しただけで肩の違和感が消えたケースを何度も見てきました。前後のバランスが整うと、肩の安定感が驚くほど変わります。

ポイントは肘を肩より高く上げながら引くことと、最後に肩甲骨を寄せきること。重量は軽めで、12〜15回×3セットから始めてください。肩がすくんだり、体が揺れたりする場合は重すぎます。ベンチプレスの日の最後に組み込み、肩の後方に刺激が入る感覚を確認しながら丁寧に動作しましょう。

YTWエクササイズ

うつ伏せになり、額を床につけた状態で両腕を肩の高さに開きます。この姿勢からY字・T字・W字と腕の角度を変えながら、肩甲骨を寄せて腕を床から浮かせるエクササイズです。肩甲骨の安定化に関わる僧帽筋中部・下部と菱形筋を同時に強化できるため、ベンチプレス時の肩甲骨のズレを防ぎ、肩関節への負担を軽減できます。

Y字では両腕を斜め前方45°に伸ばし、僧帽筋下部を狙います。 T字は真横90°に開いて僧帽筋中部と菱形筋を使い、W字では肘を90°に曲げて肩甲骨の内転と下制を強調します。各ポジションで2秒静止し、10回ずつ3セットを目安に行いましょう。呼吸は腕を上げる時に吐き、下ろす時に吸います。

経験上、ベンチプレスで肩が前にズレやすい方は、YTWエクササイズを2週間続けただけで肩の安定感が明らかに向上します。特にT字の動作で肩甲骨がしっかり寄せられるかどうかが、フォーム改善のバロメーターになります。


ベンチプレスで肩を痛めた時の対処法

ベンチプレスで肩を痛めてしまったとき、多くの人が「休めば治る」と考えてそのまま放置しがちです。でも、痛みの原因となったフォームや動作パターンを改善しないまま再開すると、同じ場所を繰り返し痛めるリスクが高まります。ここでは、痛めた直後の対処法から段階的な復帰プランまで、理学療法士として現場で指導している実践的なステップを紹介します。

痛みが出たらすぐにトレーニングを中止する

ベンチプレス中に肩の前方や後方に痛みを感じたら、その場でセットを中断してください。痛みは体が発する危険信号であり、我慢して続けると腱板損傷やインピンジメント症候群を引き起こす可能性が高まります。

経験上、「あと1回だけ」とセットを完遂しようとした結果、痛みが慢性化してしまう方を何人も見てきました。痛みを感じた瞬間にバーをラックに戻すことが、回復への最短ルートです。

先日、ベンチプレスで120kgを挙げていた方が、3回目で肩に違和感を覚えたにもかかわらず5回まで続けてしまい、翌日には腕を上げることすら困難になっていました。痛みを我慢したことで、本来なら数日で回復するはずの軽度の炎症が、数週間のトレーニング中断を余儀なくされる状態にまで悪化していました。

痛みが出た後は、その日のベンチプレスは中止し、肩に負担のかからない種目(スクワットやデッドリフトなど下半身種目)に切り替えるのが賢明な判断です。McCurdyら(2009年)の研究では、関節痛を感じた状態でのトレーニング継続は、筋力向上効果が低下するだけでなく、怪我のリスクを著しく高めることが報告されています。

RICE処置の基本

ベンチプレス中に肩を痛めた場合、最初の72時間以内に適切な応急処置を行うことが、その後の回復を大きく左右します。そこで重要になるのが、RICE処置(Rest・Ice・Compression・Elevation)です。

まずRest(安静)では、痛めた肩に負担をかけるトレーニングを完全に中止します。「少しなら大丈夫」と思って動かし続けると、炎症が広がり回復が遅れます。次にIce(冷却)は、痛めた直後から48時間以内に特に効果的です。アイスパックを15〜20分当てて、1〜2時間おきに繰り返すと、炎症物質の拡散を抑えられます。

Compression(圧迫)では、バンテージで肩を軽く巻いて腫れを防ぎます。ただし、締めすぎると血流を妨げるため、指が入る程度の余裕を持たせましょう。Elevation(挙上)は肩関節では難しいですが、横になって腕を高めのクッションで支えることで、多少なりとも腫れを軽減できます。

この応急処置を適切に行うことで、炎症の拡大を最小限に抑え、次のステップへスムーズに進めます。

痛みが続く場合は専門家に相談する目安

痛みが2週間以上続く、動かすたびに鋭い痛みがある、夜間痛で眠れない、といった場合は自己判断でトレーニングを続けず、整形外科や理学療法士に相談してください。肩関節のインピンジメント症候群や腱板損傷は、放置すると炎症が慢性化し、肩峰下スペースで腱板や滑液包が繰り返し挟まれて悪化します。

実際に臨床で診た30代男性は、半年間肩の違和感を我慢してベンチプレスを続けた結果、棘上筋腱の部分断裂まで進行していました。早期に受診していれば、保存療法だけで回復できたケースです。

Strömbäck & Aasa(2018年)の研究では、パワーリフターの肩の痛みの多くは早期介入で改善できると報告されています。

痛みの程度・動作制限・音がする頻度を記録し、専門家に正確に伝えることで、個別のリハビリプログラムを組んでもらえます。まずは自己判断せず、早めに相談してみましょう。


よくある質問(FAQ)

初心者からよく寄せられる疑問にお答えします。

Q: ベンチプレスで肩が痛くなる原因は何ですか?

**肩甲骨が固定されていない状態で高重量を扱うと、肩関節に過度な負担がかかり痛みが生じます。**特に多いのが肩峰下インピンジメント症候群で、肩峰と上腕骨の間にある腱板が挟まれて炎症を起こす状態です。グリップ幅が広すぎる、肘が肩よりも下がりすぎている、バーを胸の上部に下ろしているといったフォームの問題が原因となります。ローテーターカフ(肩のインナーマッスル)が弱いと肩関節が不安定になり、さらに痛めやすくなるのです。

Q: ベンチプレス中の正しい肩の位置は?

**肩甲骨を寄せて下げた状態をキープし、肩が前に出ないようにするのが正解です。**ベンチに仰向けになったら、まず肩甲骨を背骨に向かって寄せ、お尻の方向へ下げます。この「肩甲骨を寄せて下げる」姿勢を動作中も維持することで、肩関節が安定し前方への負担が減ります。バーを下ろすときに肩が前に出ると、肩関節のインナーマッスルに過剰なストレスがかかり痛みの原因に。常に「肩甲骨で土台を作る」意識を持ちましょう。

Q: 肩に負担をかけないベンチプレスのグリップ幅は?

**肩幅の1.5倍程度、バーを胸に下ろしたときに前腕が床と垂直になる幅が基本です。**グリップが広すぎると肩関節の水平外転角度が大きくなり、肩峰下でインピンジメントが起こりやすくなります。反対に狭すぎると上腕三頭筋への負担が増え、大胸筋への刺激が減少。前腕が床に対して垂直な角度を保てる幅なら、力のベクトルが効率的に伝わり肩への余計なストレスを避けられます。まずは81cmラインの内側(小指または薬指)から始めてみてください。

Q: ベンチプレスで肩を痛めた場合の対処法は?

**痛みがある間は無理に続けず、まず2〜3日は完全に休息を取ることが最優先です。**痛みが引いたら、軽い負荷でフォームチェックから再開します。具体的には空バー(20kg)や10kg程度のダンベルで、肩甲骨の動きと肘の角度を確認しながら10回×2セット程度行い、痛みが出ないか確認してください。痛みが1週間以上続く、または可動域が明らかに制限される場合は、整形外科や理学療法士の評価を受けるべきです。自己判断で無理を続けると慢性化するリスクがあります。

Q: 肩の柔軟性を高めるストレッチ方法は?

**ベンチプレス前には肩甲骨周囲と胸郭の動的ストレッチ、終了後は胸筋と肩前部の静的ストレッチが効果的です。**トレーニング前は、壁に手をついて肩甲骨を大きく動かす「ウォールスライド」や、軽めのチューブで肩甲骨を寄せる動きを10回×2セット行います。トレーニング後は、壁に前腕を当てて胸を開く「ドアフレームストレッチ」を30秒×2セット実施。肩関節の可動域制限は痛みの原因となるため、日常的にストレッチを習慣化することで肩周囲筋のバランスが整い、痛みの予防につながります。


まとめ

**ベンチプレスで肩が痛くなる原因の多くは、肩甲骨が不安定なまま肩だけで重量を支えているフォームにあります。**正しい肩甲骨の位置と動きを意識することで、肩への負担を大幅に減らせます。

  • 肩が痛くなる原因は肩甲骨の寄せ不足・下制不足・脇の開きすぎ・肘の出しすぎ・ブリッジ不足の5つ
  • 正しいフォームは肩甲骨を寄せて下げ、脇を45°に保ち、胸にバーを下ろす軌道を守ること
  • インピンジメント症候群の予防には肩峰下スペースを広く保つフォームが重要
  • ローテーターカフを鍛えることで肩関節の安定性が高まり、痛みのリスクが減る
  • 痛みが出た時は無理をせず、軽い重量・高回数で動きを確認する段階に戻る

今日から、まずは空バー(20kg)で肩甲骨を寄せて下げる動作を10回3セット練習してみましょう。1週間続けて動きが安定してきたら、重量を5kgずつ増やしていきます。ローテーターカフのエクササイズも週2回取り入れると、さらに肩の安定性が増します。

正しいフォームを身につければ、肩を痛めずに長く高重量を扱えるようになります。焦らず基礎から固めていきましょう。


参考文献

  • Free-Weight and Machine-Based Training Are Equally Effective on Strength and Hypertrophy: Challenging a Traditional Myth. (Med Sci Sports Exerc, 2023, Hernández-Belmonte A, Martínez-Cava A)
  • Comparison of chain- and plate-loaded bench press training on strength, joint pain, and muscle soreness in Division II baseball players. (J Strength Cond Res, 2009, McCurdy K, Langford G)
  • Prevalence and Consequences of Injuries in Powerlifting: A Cross-sectional Study. (Orthop J Sports Med, 2018, Strömbäck E, Aasa U)
  • 抄録集 / URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/chubu/68/Proc_145th_Congress/68_pa1/_article/-char/ja/
  • 第54回日本体力医学会大会 / URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm1949/48/6/48_6_671/_article/-char/ja/
  • 第49回日本体力医学会大会 / URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm1949/43/6/43_6_473/_article/-char/ja/
  • 肩関節可動域訓練方法の違いについて–最終可動域角度・痛みの程度を中心に | 理学療法科学学会
  • Rehabilitation of shoulder impingement syndrome and rotator cuff injuries: an evidence-based review | British Journal of Sports Medicine
  • Guideline for diagnosis and treatment of subacromial pain syndrome: A multidisciplinary review by the Dutch Orthopaedic Association
  • 理学療法ガイドライン – 一般社団法人 日本理学療法学会連合

この記事の著者について

ゆいと(理学療法士)

総合病院で6年間、急性期から回復期、訪問リハビリまで幅広く携わってきた現役の理学療法士です。さまざまな状態の患者さんのリハビリに関わりながら、自身もトレーニング歴6年以上。臨床で得た体の仕組みの知識と実際のトレーニング経験の両方を活かし、「痛めない・不調を治す筋トレ」をテーマに発信しています。


関連記事


▶ yuttarimuscleでは、理学療法士の視点から「痛めない・不調を治す筋トレ」の情報を発信しています。
記事一覧から、あなたの悩みに合ったトレーニング情報を見つけてください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次